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“35歳”を救え なぜ10年前の35歳より年収が200万円も低いのか
NHK「あすの日本」プロジェクト×三菱総合研究所 著
  • 税込価格¥1,575
  • 四六判並製/304ページ
  • ISBN978-4-484-09243-0
  • 2009.11発行
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内容
 団塊ジュニアの中心であり、これからの日本を背負って立つ“35歳”世代。しかし、超就職氷河期に苦しみ、リーマンショックの直撃を受けた彼らの多くは、収入が伸びず、定職に就けず、結婚できず、子どもを持つこともできないといった、厳しい状況に置かれている。安定した「普通」の暮らしすら望めないのが現実だ。
 未来シミュレーションによれば、「35歳問題」を放置すれば、20年後の日本はゼロ成長、消費税18%、医療費の自己負担2倍、失業率10%超、年金30%カットという、「超コスト負担社会」になる。若い世代だけでなく、あらゆる世代が安心した暮らしができる日本をつくるためには、どうすればよいのか。
 大反響を呼んだ「NHKスペシャル “35歳”を救え」に内容を大幅追加して単行本化。35歳のリアルがわかる、1万人アンケートの詳細結果も収録。
はじめに
 東京都内のある総合病院。髪に白いものが目立ち始めた1人の男が、待合室の長椅子に腰を下ろし、80歳半ばを過ぎた母の診察が終わるのを待っていた。
 男の名前は、袴田吉彦。55歳。30年以上勤めてきた会社を、先月、リストラされ、今は失業中だ。袴田が、ぼんやりと待合室のテレビに目をやると、アナウンサーが淡々とした口調で経済ニュースを伝えていた。
 「日本の人口は20年前に比べて1割減少し、GDP、国内総生産は、ついに20年前と同じ水準にまで落ち込みました。一方、消費税率は、今月から18パーセントに引き上げられます」
 「世知辛い世の中になったものだ」。袴田は、フッと、ため息をついた。
 でも、これが現実なのだ。

 2029年の日本。経済は落ち込み、税金や社会保障のための個人負担が大きくなっていた。この日、袴田が母親のために病院の窓口で支払った自己負担は、20年前に比べて2倍だ。
 「まさか日本がこんなふうになるなんて。20年前、俺が35歳の時には思いもしなかった」。袴田は、現実をすんなりと受け入れることができなかった。
 病院からの帰り道。自宅近くの公園を通りかかった。かつては子どもたちの元気な声であふれていた公園に、もはや、子どもたちの姿はない。少子高齢化の重い現実だ。公園では、杖をついたり、車椅子に乗ったりした高齢者たちが、午後のけだるい時間を、静かに、何をするでもなく、思い思いに過ごしていた。
 「誰がこの老人たちを支えているのか?」「若い世代なんだよな」。袴田は、何度も自分に言い聞かせるように、つぶやいた。
 袴田と同じ世代の夫婦は、夫の給料が頭打ちで上がらないにもかかわらず、年金、保険の支払いが重くのしかかっている。家計をどう切り詰めても、わが子の教育費を捻出できない。とにかく生きていくのがやっと、という状態だ。
 袴田の学生時代からの親友、安井健司もその1人。50歳を過ぎても親と同居し、両親に面倒を見てもらっている、いわゆる「パラサイト・シングル」だ。
 昔は、フリーターや派遣でうまくやっていた。しかし、「100年に1度の経済危機」と言われた20年前の2009年に仕事を失くし、それから、生活が一変してしまった。今では、孫の顔を見たいと言う親の思いをわかってはいても、仕事も結婚も、もはやどうすることもできず、こともあろうに、減額された親の年金をあてにしながら、飲んだくれの毎日を送っている。
 
***

 これは、わたしたちが経済指標や雇用、所得など、さまざまなデータを分析して行った、「20年後の日本」のシミュレーションだ。
 100年に1度といわれる経済危機に直面している現在、将来への漠然とした不安、いや、もっと深刻に危機感すら感じている人も、少なくないのではないだろうか。でも、それではいったい、どうすればいいのか? どうすれば明るい未来、「あすの日本」を切り開くことができるのか? これなら大丈夫という有効な解決策、処方箋は、果たしてあるのか? その手がかりを探るため、未来の日本の姿を覗いてみたのが、冒頭のシミュレーションだ。
 その結果は、驚きを通り越し、恐怖すら覚えるものだった。
 日本の将来を左右する重要な鍵を握るのが、現在35歳の世代。20年後、その35歳の世代の所得が増えずに、正社員と非正社員の格差が放置され、有効な対策も打たれない最悪の場合、政府のサービスが著しく低下し、個人に負担が重くのしかかる“超コスト負担社会”になることが明らかになったのだ。
 経済アナリストも、「もし雇用が悪化する状況が続けば、向こう20年、ゼロ成長の可能性すらあり得る」と警告した。
 シミュレーションも、ここまでくると正直ぞっとする。しかし、この最悪のシナリオを回避するための、もう1つのシミュレーションがある。将来を担う若い世代に、いま重点的に雇用対策を行うと、正社員の数が増え、給料も上がり経済が上向くという、シミュレーションの結果が導き出せるのだ。
 しかも、すでに若い世代を支援しようとする取り組みが始まっているところもある。岡山県の小さな村では、住宅と子育てへの支援を行い、「安心して子どもを育てることができる社会」をつくろうとしている。また、海外に目を転じればヒントも見つかった。イギリスでは若い世代の再就職を積極的に推し進め、「安定して仕事を得られる社会」を実現しようとしている。
 時間はあまりない。まさに待ったなしである。しかし、いま始めれば、きっと間に合うはずだ。
 最悪のシナリオではなく、若い世代をはじめ、あらゆる世代が豊かに幸せに暮らせる社会。そんな日本をつくるためには、どうすればいいのか? シミュレーションから見えてきた「未来からの提言」をもとに、読者の皆さんと一緒に考えてみたい。

NHK・解説委員 柳澤秀夫
目次

はじめに

第1章 なぜ“35歳”なのか
“35歳”が20年後の日本を左右する

第2章 35歳の現実
崩れ始めた“普通”の暮らし
主婦が働いても家計を支えられない
高まる転職率と未婚化
抜け出せないパラサイト
非正規雇用の固定化と壊れる心
地域崩壊と次世代への影響

第3章 35歳問題への取り組み
積極的雇用政策で「人への投資」を
子育て世代に優しい生活支援
企業が支える家庭と両立する働き方

第4章 「あすの日本」を築くために
35歳問題の原因と外国の方策
提言1 日本版・積極的雇用政策
提言2 安心して子を育てるための生活支援策
まとめ

データで見る35歳の実態〜35歳1万人アンケート集計結果

おわりに

著者
NHK「あすの日本」プロジェクト
「あすの日本」プロジェクトは、NHK報道の総力を挙げて日本の課題、地球規模の課題を徹底取材し、持続可能な新しい仕組みをつくるためのヒントを探るプロジェクト。世界が劇的に変化する中で、日本の現状と将来を総合的、多面的に分析し、これからの日本のあり方について考える。
三菱総合研究所
約700名の研究員を擁する、日本を代表する総合シンクタンク。1970年に創業し、企業経営、インフラ整備、教育、医療、福祉、環境、資源、エネルギー、安全防災、先端科学技術、ITなど専門分野は多岐にわたる。企業や国・自治体が抱える問題の解決策を提言、その実施までを支援している。
●装丁・本文デザイン/轡田昭彦+坪井朋子
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